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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1721号 判決 1989年2月17日

昭和六二年(ネ)第四〇一号事件控訴人昭和六二年(ネ)第一七二一号事件附帯被控訴人(以下「被告」ともいう。)

日産設計監理株式会社

右代表者代表取締役

堂 野 信 明

昭和六二年(ネ)第四〇一号事件控訴人昭和六二年(ネ)第一七二一号事件附帯被控訴人(以下「被告」ともいう。)

堂 野 信 明

右両名訴訟代理人弁護士

豊 蔵   亮

植 田 勝 博

松 村 剛 司

昭和六二年(ネ)第四〇一号事件被控訴人昭和六二年(ネ)第一七二一号事件附帯控訴人(以下「原告」ともいう。)

株式会社ゼニヤ

右代表者代表取締役

玉 野 昭 次

昭和六二年(ネ)第四〇一号事件被控訴人昭和六二年(ネ)第一七二一号事件附帯控訴人(以下「原告」ともいう。)

玉 野 昭 次

昭和六二年(ネ)第四〇一号事件被控訴人昭和六二年(ネ)第一七二一号事件附帯控訴人(以下「原告」ともいう。)

玉 野 ヒ サ

右三名訴訟代理人弁護士

澤 田 和 也

主文

一  原判決主文第二、第三項中、原被告らに関する部分を次のとおり変更する。

1  被告らは、各自、

(一)  原告株式会社ゼニヤに対し、金二〇七六万八九六五円及びこれに対する昭和五八年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)  原告玉野昭次に対し、金一三二一万九四五一円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(三)  原告玉野ヒサに対し、金一二八六万〇七七四円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

支払え。

2  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  本件各附帯控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  被告ら

(昭和六二年(ネ)第四〇一号事件につき)

1  原判決中被告ら敗訴部分を取り消す。

2  原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする。

(昭和六二年(ネ)第一七二一号事件につき)

1  主文第三項と同旨。

2  訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする。

二  原告ら

(昭和六二年(ネ)第四〇一号事件についき)

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は第一、二審とも被告らの負担とする。

(昭和六二年(ネ)第一七二一号事件につき)

1  原判決主文第二項を次のとおり変更する。

被告らは、各自

(一) 原告株式会社ゼニヤに対し、金三九一〇万七五七八円及びこれに対する昭和五八年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二) 原告玉野昭次に対し、金二三五五万九四九九円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(三) 原告玉野ヒサに対し、金二三四五万二八四八円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

支払え。

2  訴訟費用は第一、二審とも被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

第二  当事者の主張

以下に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一  <省略>

二  同八枚目裏七行目の「被告」を「被告日産設計」に、八行目の「建築士法」から九枚目裏一行目の「生じさせた。」までを「建築士が設計、すなわち自己の責任において設計図書を作成するに当たっては、建築工事を実施する建築物が法令に定める基準に適合するようにしなければならず、殊にその基礎構造については、建築物の敷地の地盤状況を調査の上、これが法令に定められた要件を充たすよう設計すべき注意義務があるのにこれを怠り、敷地の地盤状況についてボーリング等による調査をしないまま、漫然と右地盤の地耐力は一平方メートル当たり五トンと推計し、それを前提として基礎構造の設計を行なったため、これに基づいて破産会社が工事を施行して完成させたA・B両建物の基礎構造は前記のとおり軟弱な地盤に耐え切れず、徐々に不等沈下を生ずる結果となったものである。さらに、被告堂野は、本件建物建築工事の工事監理者として、自己の責任において工事を設計図書と照合し、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与える等の措置を講ずべき注意義務あったのにこれを怠り、工事を設計図書と一切照合しなかったため、前記2(一)(1)及び(2)、同(二)(1)ないし(3)のごとき欠陥を生ぜしめるにいたったものである。」に訂正し、同九枚目表七行目の「被告堂野」から一三行目の「損害」までを「右損害は、被告日産設計の代表取締役である被告堂野がその職務を行うについて原告らに加えたものであるから、被告日産設計もまた、民法四四条により原告らに対し右損害」に訂正する。

三、四 <省略>

五  同一八枚目表二行目と三行目の間に「被告堂野が基礎構造の設計図書に『基礎及び地中梁は地質調査の結果再検討の上最終決定の事』と明記したのもそのためである。したがって、後日建物敷地の地盤の地質調査をし、その調査結果に基づいて必要な設計の見通しをすべき義務を負っていたのは右のような限定された内容の委託をした破産会社であって、被告堂野としては、破産会社が後日必要な地質調査をし、同被告の設計にかかる基礎構造ではその結果判明する地耐力に耐えられないことが明らかになれば、改めて基礎構造の設計に必要な修正を加えられ、それに基づいて施工されるものと信頼して右設計図書を作成したものであるから、同被告にはなんら原告ら主張のごとき注意義務の違反はない。」を加える。

六  同一八枚目表一一行目の「二三万円」を「二一万円」に訂正し、裏三行目と四行目の間に次のとおり加える。

「(三) A、B各建物の不等沈下の原因は、B建物の北側に隣接する土地上に建てられた長田ハイツの建物の建築工事の際、基礎工事として、B建物のすぐ南側の土地が山留め等の土砂滑動予防措置を講じないで素掘りされたことにある。

長田ハイツの敷地の素掘りは、昭和五一年六月頃の梅雨時期に一.四メートルの深さで行われ、約一か月間埋め戻しのなされない状態に置かれていたものであって、余りにB建物に近接して掘られたため、その基礎があらわになる程であった。

このため、B建物の下の地層が掘られた穴の方向へ滑動し、B建物の基礎との間に空隙ないし弛みが生じて不等沈下を来たす結果となったものである。A、B建物がもっぱら北側の長田ハイツの方向に傾斜していてその反対側には異常が認められないこと、また、同様に軟弱な地盤の上に建てられている近隣の建物が全く不等沈下を起こしていないことからも、そのことが窺われる。なお、長田ハイツと隣接していないA建物まで同一方向に傾斜したのは、A建物がB建物と中央部で結合されているためB建物が傾斜する力に引きずられたことによるものである。

(四) 消滅時効の抗弁

仮に被告らに責任があるとしても、その責任は時効によって消滅している。すなわち、原告昭次は、昭和五二年夏頃A、B各建物が傾斜していることに気付き、直ちに破産会社に補修を求めるとともに、長田ハイツの工事の際の敷地の素掘りが右傾斜の原因ではないかと考え、破産会社に長田ハイツの施工業者と交渉するよう要求した、その結果、昭和六三年五月頃A、B各建物の補修が行われたが、同年九月頃には再び傾斜していることが判明したので、原告昭次は再度破産会社に補修方を申し入れた。

したがって、原告らとしては、遅くとも昭和五三年九月頃には、A、B各建物の傾斜の原因がその設計、施工の瑕疵にあること、その原因について責任を負うべき者が被告らであることを知っていたものというべきところ、その時からすでに三年が経過しているので、被告らは、本訴において消滅時効を援用する。」

七  一八枚目裏五行目冒頭から七行目末尾まで削除し、八行目の「2」を「1」に訂正し、一一行目の「争う。」の次に「確認申請書添付の設計図書は、実際の建築工事実施のために必要な設計図書であって、単に建築確認を受けるためだけに作成して工事の実施のために用いないというような設計図書ではありえないから、建築士としてそのような設計図書を作成する以上、原告ら主張のような注意義務を負うのは当然であって、被告らの主張は無責任な言い逃れにすぎない。」を、一三行目の末尾に「建築確認を受けるためだけの『工事監理者』名義の貸与というようなことは法の認めないところであるから、被告堂野が建築確認申請書の『工事監理者』欄に自己の意思に基づいて署名をした以上、工事監理者としての責任を免れることはできない。同(三)の事実は否認する。同(四)の事実は否認する。」をそれぞれ加える。

八  同一九枚目表一行目の「3」を「2」に、三行目の「ておれば」を、「、地盤の沈下や変形等に対しても構造耐力上安全なものであったならば」にそれぞれ訂正し、裏三行目の末尾に「このことは、本件各建物の不等沈下が長田ハイツの基礎工事直後に急激に起こったものではなく、徐々に進行していることからも窺える。」を加え、三行目と四行目の間に次のとおり加える。

「3 建築に関して素人である原告らが、本件各建物の不等沈下の原因が、地盤に見合わない不相当な基礎構造の設計上の瑕疵に基づくものであったと認識したのは、森田泰次作成の鑑定書(甲第一号証)が原告らに提出された昭和五八年三月上旬のことである。

昭和五三年九月の時点では、破産会社はもちろん誰からも、不等沈下の原因が設計上の瑕疵によるものであるとは告げられておらず、もっぱら地盤の悪いことが原因であるといわれていたものであるし、また、この当時、被告堂野が本件各建物の設計者であることも知らなかったのである。

したがって、被告ら主張の消滅時効が昭和五三年九月から進行を開始したということはありえない。」

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所は、原告ゼニヤの被告らに対する請求は、金二〇七六万八九六五円及びこれに対する昭和五八年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、その余の原告らの被告らに対する請求は、原審が認容した限度でそれぞれ理由があるが、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、以下に付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二〇枚目表四行目の「本人」の次に「(第二回)」を加え、裏二行目の「別紙図面」を「原判決添付別紙図面(以下『別紙図面』という。)」に訂正し、同二一枚目表一二行目の「鳥巣次郎」の次に「(原審)」を加え、同二二枚目表九行目の「調査」に前に「昭和六〇年七月一六日頃鳥巣次郎が」を加え、同二三枚目表六行目の「一、二、」の次に「乙第六号証、第七号証、第八号証、当審における証人鳥巣次郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第二五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二六号証、」を、七行目の「鳥巣次郎」の次に「(原審及び当審)」を、七、八行目の「堂野」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

2  同二四枚目表八行目の「換算して」を「と仮定して」に、裏六行目の「上旬」を「二七日」にそれぞれ訂正し、一一行目の「昭和」の前に「長田ハイツの完成から約九年後である」を加え、同行目の「一四日」を「一六日」に訂正し、同二五枚目表八行目の「右」から一〇行目冒頭の「た。」までを《「A建物については、地表より三〇センチメートルの所から深さ八〇センチメートルのいわゆるベタ基礎(上部構造の広範囲な面積内の応力を単一の基礎スラブで地盤または地業に伝える基礎)を施工し、その下には五センチメートルの厚さの捨コンクリートを張り、さらに一五センチメートルの深さで割栗石を敷き、また、B建物については、地表より三五センチメートルの所から深さ八五センチメートルのベタ基礎を施工し、その下には五センチメートルの厚さの捨コンクリートを張り、さらに二〇センチメートルの深さで割栗石を敷いた施工をした。」》〔①部分〕に訂正し、一一行目の「建設する際」の次に「の昭和五〇年七月」を加える。

3  同二六枚目裏三行目の「再度」の前に「原因の究明を求めるとともに」を、同二七枚目表五行目の「各建物」の前に「右補修工事をしても」を、六行目の「できない」の次に「といわれた」をそれぞれ加え、二七枚目裏二行目の「誤った」から三行目の「起因する」までを《「ボーリング調査等をすることなく、それが実際には極めて低いものであるのに一平方メートルに五トンもの数値であるとの誤った前提に立って、建物に重心を下げたり、偏心しないようにしたり、また、基礎を十分に深くするなどの配慮をしないまま、地表から一一〇ないし一二〇センチメートルの深さのベタ基礎とする設計がなされ、それに基づいて右認定のようなベタ基礎が施工されたことにある。」》〔②部分〕に訂正し、九行目冒頭から同二八枚目裏一一行目末尾までを次のとおり訂正する。

《「この点につき被告らは、右不等沈下の原因は長田ハイツの建築工事の際にB建物敷地のすぐ近くまで素掘りをしたことにあり、被告堂野の設計にかかるベタ基礎と不等沈下との間には因果関係はないと主張しているところ、原審及び当審における被告堂野本人尋問の結果、原審証人西村博の証言、原審での原告昭次本人尋問の結果によれば、B建物の完成後約半年を経過した頃、前記のとおり同建物の北側に隣接する土地上に長田ハイツの建物の建築工事が開始されたこと、その際、建物の基礎工事のため、B建物のすぐ間近の地点まで一メートル余り敷地が掘り下げられたが,掘削面に矢板を打つなどの措置は講じられず、基礎工事の終るまで掘削されたままの状態に置かれていた(素掘り)ことが窺われるとともに、B建物が長田ハイツの方向に傾斜していることは前記のとおりであって、これらの事実からすれば、原審及び当審証人鳥巣次郎の証言に照らしても、右長田ハイツ敷地の素掘りがB建物の基礎の不等沈下になんらかの影響を及ぼしたことは、これを否定することができないといわざるをえない。

しかしながら、隣接地で素掘りがなされなかったA建物(この建物が構造上B建物とは別個の建物で互に結合されていないことは前記のとおりである。)も不等沈下していること、A、B建物の不等沈下が長田ハイツの敷地の素掘りが行われた一時期に限定されることなく、長期間にわたって徐々に進行していること、A、B建物の敷地が地表から十数メートルの地下まで地耐力一平方メートル当り〇ないし一トンというきわめて軟弱な地盤である(A、B建物の自重だけでも一平方メートル当り三.八九トンである。)ことはいずれも前記認定のとおりであって、これらの点からすれば、長田ハイツ敷地の素掘りのみがA、B建物の不等沈下の原因であるとはとうてい認められず、この不等沈下が前記のごとき設計、工事監理及び施工上の瑕疵に起因するものであるとの前示認定は、右のような事情の存在によってなんら妨げられるものではないといわなければならない。

さらに、被告らは、同様に軟弱な地盤であることが推測される近隣の建物について不等沈下が生じていないことから考えても、右素掘りのみがA、B建物の基礎の不等沈下の原因と考えるべきであると主張しているところ、A、B建物の近隣地において建物基礎の不等沈下に起因する紛争例が発生したことを窺わせるような証拠は見当たらないけれども、近隣地の建物がA、B建物と全く同一の規模構造のものでないことは経験則上も明らかなところであるから、右のような紛争例がないからといって、このことから直ちに本件A、B建物の基礎の不等沈下の原因が長田ハイツ敷地の素掘りにあるということはできず、そのことはむしろ、近隣の建物の基礎構造がそれぞれの敷地の地盤の状況に応じて不等沈下を生じさせないよう適切に設計、施工されていることを推測させる事情とみるのが相当である。したがって、被告らの右の主張も採用することができない。」》〔③部分〕

4  同二九枚目表一行目の「鳥巣次郎」の次に「(原審)」を加え、同三一枚目表四行目の「水備」を「基準」に訂正し、七行目冒頭から一一行目末尾まで及び一二行目の「破産会社、」をそれぞれ削除し、同行目の「堂野及び同日産設計」を「ら」に訂正し、一三行目冒頭から同三二枚目表一行目末尾までを削除し、六行目の「第一六号証」の次に「、乙第七号証、第八号証、」を、七行目冒頭の「郎」の次に「(原審及び当審)」を、同行目の「一部」の前に「原審及び当審、」を、裏七行目の「建築」の次に「確認」をそれぞれ加え、一一行目の「そこで、被告堂野は」を《「被告堂野は、これまでもボーリング調査をしないまま設計図書を作成し、建築確認申請手続をするように依頼されたことがしばしばあったため、」》〔④部分〕に訂正する。

5  同三三枚目表二行目の「深さ」の前に「地表より三五センチメートルの所から」を、一三行目の「建築」の次の「士」を、裏三行目の「して」の次に「(基礎造は地表より三〇センチメートルの所から深さ八〇センチメートルのベタ基礎構造)」をそれぞれ加え、同行目の「そのころ」を「昭和五〇年一月一六日付で」に、同三四枚目表四行目の「工事監」から五行目の「おらず」までを《「原告らは勿論、破産会社からも工事監理者となるよう委託を受けておらず」》〔⑤部分〕にそれぞれ訂正し、一〇行目の「被告堂野」の次に「(原審及び当審)」を加え、裏五行目の「右被告らが」を《「原告ら又は破産会社の委託により、被告らが自己の責任においてA、B各建物の」》〔⑥部分〕に訂正する。

6  同三五枚目表七行目の「できるが、」の次に《「建築確認の制度の趣旨からすれば、確認申請書に添付される設計図書が本来現実に施工されるべき工事用の図面及び仕様書であることは当然のことであるばかりでなく、」》〔⑦部分〕を、九行目冒頭に、「、設計図書の記載内容」をそれぞれ加え、同行目の「設計は」を「設計図書はただ単に」に、同行目の「ために」を「ためにのみ便宜上形式的に作成された」にそれぞれ訂正し、裏一行目の「ない」を「ず」に、同行目の「ところ」を《「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変化に対して構造耐力上安全なものとしなければならない(施行令三八条一項)のであるから、被告堂野としては、A、B各建物の設計を行うに際し、その敷地の地耐力等を把握するための地盤調査を行い、それによって確認された地耐力に照らして構造耐力上安全な建築物が建築されるよう基礎構造の設計をなすべき注意義務があったというべきである。しかるに被告堂野は」》〔⑧部分〕に訂正する。

7  同三六枚目表三行目の「しかしながら、」の次に「前記甲第一号証によれば、」を加え、六、七行目の「すぎない」から七行目の「から」までを「すぎないことが認められるので、」と訂正し、九行目の「本調査」の前に「地耐力等基礎設計の基本的資料を得るための」を、一一行目の「明らかである」の次に《「ばかりでなく、敷地の実際の地耐力は現実に地盤調査をしてみなければ正確に把握することができず、大阪市の担当者といえども、市内の土地の隅々まで正確にその地耐力を認識しているものでない以上、その指導があったとしても、地盤調査に基づいて地耐力を正確に把握することなく、推定値を前提として基礎構造を設計して施工すれば、推定値の誤まりのため、基礎の不等沈下等の事態が生ずることがありうることは、予見するに難くないことであるから、右のような事情があったからといって、被告らが前記過失責任を免れることになるものではないというべきである。」》〔⑨部分〕を一二行目の「被告堂野」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加え、一三行目の「供述する」を《「供述し、乙第五号証によればB建物の基礎伏図には『基礎及び地中梁は地質調査の結果再検討の上最終決定の事』との記載がなされていることが認められる」》〔⑩部分〕に訂正し、裏三行目の「経緯」の次に《「や前記のとおりこれまでも破産会社が地質調査をしないまま建築にとりかかったことがしばしばあったこと」》〔⑪部分〕を加える。

8  同三六枚目裏八行目と九行目の間に次のとおり加える。

《「なお、本件A、B建物の構造上の欠陥のうち、鉄骨軸組架構体の歪み(二1(一)、鉄骨構造体の部材熔接の不良(二1(二))、及び耐火、防火上の欠陥(二2)がいずれも工事監理上及び施工上の瑕疵であることは前記のとおりであるところ、被告堂野が原告らは勿論破産会社からも、本件工事について工事監理の委託を受けていないことも前記のとおりであるから、被告らは右瑕疵に基づく損害につきその賠償責任を負うものではないというべきである。

四  消滅時効の抗弁について

被告らは、本件損害賠償請求権の消滅時効が昭和五三年九月頃には進行を開始していたことを前提として、これより三年を経過した時に時効が完成したと主張するが、、前記(二1(三)(5))認定のとおり、傾斜していることが判明したA、B各建物を補修して一旦これを是正した後、再び傾斜していることが明らかになった昭和五三年九月頃の時点においては、原告昭次はまだ、破産会社に対し右傾斜の原因の究明を申し入れるような行動をとっていたのであるから、原告昭次が、この頃、右傾斜の原因が被告堂野の設計上の瑕疵に起因するものであって、被告らが加害者であることを知ったものとは認めがたく、他にこれを認めるに足りる的確な証拠もないので、結局、被告らの右抗弁を採用することはできない。」》〔⑫部分〕

9 同三六枚目裏九行目の「四」を「五」に訂正し、同三七枚目表三行目の「一部」の前に「原審」を加え、一〇行目の「決すべき」を「決定される事柄」に、一一行目の「以下」を「森田泰次作成の鑑定書。以下、」にそれぞれ訂正する。同裏七行目の「防火」を「防災」に、一一行目の「以下」を「鳥巣次郎作成の鑑定書。以下、」にそれぞれ訂正し、同三八枚目表一行目の末尾に「入力作業になるため」を、同三九枚目表五行目の「証言」の次に「(原審)」を加え、裏一行目の「しかしながら」から八行目末尾までを次のとおり訂正し、同一一行目冒頭から同四〇枚目裏五行目冒頭の「(2)」までを削除し、一一行目の「次郎」の次に「(原審)」を、一三行目の「意見による」の次に「基礎工事の鉄筋、型枠、掘削等の費用及び建起し、復旧等の費用の各」をそれぞれ加える。

「もっとも、基礎構造の瑕疵の外に前記鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵、B建物についての鉄骨軸組架構体組方の瑕疵、さらに耐火、防火構造の瑕疵等工事監理上及び施工上の瑕疵の補修をも同時に行うことを前提とすれば、その補修は、不可能とはいえないものの、実際上さらに高度な困難を伴うものといわざるをえないけれども、前記のとおり、右工事監理上及び施工上の瑕疵については被告らは責任がないことや不法行為法の基本である損害の公平な分担という理念に照らして考えれば、その場合でもなお部分修復法による補修に要する費用をもって被告らの賠償すべき損害とするのが相当である。」

10 同四一枚目表一行目の「鉄骨」の前に「三、四階部分の」を、二行目の「瑕疵」の次に「等」を、同行目の「防火」の前に「一、二階部分の」を、三行目の「瑕疵」の次に「等」を、四行目の「控除した」の次に「(右瑕疵に基づく損害について被告らが賠償責任を負わないことは前記のとおりである。)」をそれぞれ加え、九行目冒頭から裏一二行目冒頭の「(2)」までを削除し、同四二枚目表八行目の「そうすると」から一〇行目の「あるから」までを次のとおり訂正する。

「そして前示甲第六、第七号証の各二、原告昭次本人尋問の結果(原審第二回)及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二〇号証によれば、原告昭次は、昭和五二年一月A建物に隣接するB建物の四階居住部分(二四坪)を賃料月額五万五〇〇〇円で他に賃貸していたことが認められ、この事実に弁論の全趣旨を総合すれば、代替建物の賃料は月額一平方メートル当たり六九四円二六銭と推認されるので、A建物(二五四.四四平方メートル)の代替賃料は月額一七万六六四七円となり」

11 同四二枚目裏二行目、八行目及び同四三枚目表八行目の各「第二回」の前に各「原審」を加え、一二行目の「そして」から同裏二行目の「相当である。」までを次のとおり訂正する。

「しかしながら、右の打撃、精神的労苦は原告昭次個人の被った精神的損害にほかならない。当時同原告が原告ゼニヤの代表取締役であったからといって、それが法人である原告ゼニヤの被った精神的損害となるものではない。また、同原告は、具体的に特定しえない営業損失も精神的損害に還元すべきであると主張するようであるけれども、なんら法律上の根拠のない主張というほかはない。もっとも、法人の名誉権侵害のような場合、金銭評価の可能な無形の損害が発生することが絶無ではなく、このような損害については金銭賠償をさせるのが社会観念上妥当と認められることがありうる(最高裁判所昭和三九年一月二八日第一小法廷判決、民集一八巻一号一三六頁参照)けれども、本件においては、そのような損害が発生したことを認めるに足りる証拠は全く存在しない。そうすると、原告ゼニヤ主張の慰藉料については、これを認めることができないというべきである。」

12 同四三枚目裏七行目の「ところで」から同四四枚目表八行目の「ところ」まで及び一〇行目の「破産会社」から一一行目の「四〇〇〇円、」までをそれぞれ削除し、裏二行目冒頭から同四五枚目表一二行目冒頭の「(2)」までを削除する。

13 同四六枚目表一行目の「割合」の次に「(A建物二五四.四四平方メートル、B建物三一一.二六平方メートル)」を、四行目の「床面積」の次に「(原告昭次分一三一.三四平方メートル、原告ヒサ分一三四.五四平方メートル)」を、六行目の「ヒサ」の次に「分」をそれぞれ加え、九行目の「関係」を「関係」に訂正し、一一行目冒頭から裏九行目冒頭の「(2)」までを削除し、同四七枚目表一二行目及び同四八枚目表一二行目の各「第二回」の前に各「原審」を加え、同裏六行目の「総合し、」から七行目の「考えると」までを「考慮すれば」と訂正し、同四八枚目裏一二行目の「前記」から四九枚目表八行目の「ところ、」まで、一一行目の「破産会社」から「円、」まで及び一三行目の「破産会社」から「円、」までをそれぞれ削除し、同行目の「弁護士費」を「弁護士費用」に訂正し、裏三行目冒頭から一一行目末尾までを削除する。

二以上のとおりであるから、これと異なる原判決主文第二、第三項を右のとおり変更し、本件各附帯控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤原弘道 裁判官山口幸雄 裁判官中村隆次)

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